世界がん研究基金(World Cancer Research Fund:WCRF)と米国がん研究協会(American Institute for Cancer Research:AICR)による国際的評価によると、肥満は、食道(腺がん)・膵・肝臓・大腸・乳房・子宮内膜・腎臓のがんの確実なリスク要因であることが報告されている。
一方で、欧米諸国と比較して肥満の割合が低い日本人での肥満との関連はどうだろうか。日本の7つのコホート研究を統合した結果によると,BMIと全死亡,がん死亡(男性)のリスクとの間には逆J字形の関連がみられている。男女ともBMI 21〜27の範囲が最もリスクが低いことが示されており、肥満とがん全体との関係は,欧米とは異なり,日本人においてはそれほど強い関連がなく、やせでもリスクが上がることが報告されている。
そのため、WCRF/AICRや国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)などによる国際的評価、および、日本人を対象とした疫学研究からの評価に基づいて、喫煙、飲酒、体格、身体活動、食事、感染の要因から提起されている、日本人のためのがん予防法では(https://epi.ncc.go.jp/can_prev/93/8969.html)、体格の具体的目標として,中高年期男性のBody Mass Index (BMI)で21〜27,中高年期女性では21〜25の範囲内になるように成人期での体重を適正な範囲に維持することが推奨されている。
最近、トラジェクトリーモデルを用いて、BMI変化とがん死亡との関連が報告され、正常から過体重への体重増加はがん死亡リスクと関連がなかったが、恒常的なやせ、および、正常範囲から肥満への体重増加が、がん死亡リスクであることが示唆された。
一方で、観察研究でみられた低BMIでがんリスクが高いという関連は、何らかの疾患でやせたことで、見かけ上のがんリスクが高くなった可能性や、除外できない交絡要因が関連している可能性もあり、メンデルランダム化解析において、やせと疾患の因果関係が支持されない研究も報告されている。
日本人においては、肥満のみならず、やせ状態もがんリスクと関連しているが、今後は、繰り返し測定データによる体格とがんとの関連の疫学研究からのエビデンスの蓄積、および、因果関連を明らかにする疫学研究が必要である。
参考文献
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1.Sasazuki S, Inoue M, Tsuji I, Sugawara Y, Tamakoshi A, Matsuo K, Wakai K, Nagata C, Tanaka K, Mizoue T, Tsugane S; Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies. J Epidemiol. 2011;21(6):417-30.
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2.Yamamoto N, Ejima K, Mestre LM, Owora AH, Inoue M, Tsugane S, Sawada N. Body mass index trajectories and mortality risk in Japan using a population-based prospective cohort study: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Int J Epidemiol. 2024 Feb 1;53(1):dyad145.
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3.Jiang L, Sun YQ, Brumpton BM, Langhammer A, Chen Y, Mai XM. Body mass index and incidence of lung cancer in the HUNT study: using observational and Mendelian randomization approaches. BMC Cancer. 2022 Nov 8;22(1):1152.